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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)970号 判決

原告

一宮謙治

原告

一宮惠美子

右原告ら両名訴訟代理人弁護士

前田貢

被告

一宮正清

被告

一宮順子

被告

一宮田津子

被告

一宮成光

被告

一宮克次

被告

一宮恵美子

被告

一宮秀禎

被告

太田直行

被告

岡村美代

被告

一宮信弘

被告

大西惠美

右被告ら一一名訴訟代理人弁護士

前川宗夫

森正博

板東宏和

三木孝彦

主文

一  別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地のうち別紙図面の青斜線部分(392.11平方メートル)は原告らの共有とし、同土地のその余の部分並びに同目録(三)及び(四)記載の各建物は被告らの共有とする旨分割する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち別紙図面の赤斜線部分(368.66平方メートル。以下「赤斜線部分」という。)及び同目録(四)記載の建物(以下「本件(四)の建物」という。)は原告らの共有とし、本件土地のその余の部分及び同目録(三)記載の建物(以下「本件(三)の建物」という。)は被告らの共有とする旨分割する。

2  被告らは原告らに対し、本件土地のうち赤斜線部分及び本件(四)の建物について、共有物分割を原因とする各持分全部移転登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告ら及び被告らの身分関係は、別紙相続関係図記載のとおりである。

2  本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物は一宮只彦(以下「只彦」という。)の所有であつたところ、同人が昭和二二年一一月一八日に死亡したため、その妻である一宮ヨシエ(以下「ヨシエ」という。)、子である原告一宮謙治、被告一宮正清、被告太田直行、被告岡村美代、被告大西惠美及び被告一宮信弘(以下それぞれ「原告謙治」、「被告正清」、「被告直行」、「被告美代」、「被告惠美」、「被告信弘」という。)並びに只彦の長男一宮義彦(昭和二一年七月二九日死亡。以下「義彦」という。)の子である被告一宮成光、被告一宮克次及び被告一宮秀禎(以下それぞれ「被告成光」、「被告克次」、「被告秀禎」という。)の一〇名が相続した。

3  右一〇名の相続人及び義彦の妻であつた被告一宮田津子(以下「被告田津子」という。)は、昭和二五年三月、協議の上本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物をヨシエの持分三分の一、被告田津子の持分六三分の二、被告成光、被告克次及び被告秀禎の持分各一八九分の四、その余の相続人の持分各二一分の二の割合で共有する旨合意した。

4  原告謙治とその妻である原告一宮惠美子(以下「原告惠美子」という。)、被告正清とその妻である被告一宮順子、被告信弘及び被告克次とその妻である被告一宮恵美子は、いずれもヨシエと養子縁組をしたが、同女が昭和五七年六月一七日に死亡したため、右養子らが本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物の三分の一の持分権をそれぞれ七分の一ずつ相続した結果、原告ら及び被告らの持分は別紙相続関係図記載のとおりとなつた。

5  被告らによる本件土地の使用状況、同土地上の建物の所有及び使用状況等を考慮すれば、原告らと被告らが共有する本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物を分割する場合、本件土地のうち赤斜線部分及び同土地上にある本件(四)の建物を原告らの共有とし、同土地のその余の部分及び本件(三)の建物を被告らの共有とするのが相当である。

6  よつて、原告らは、共有物の分割請求権に基づき、本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物を右のとおり分割することを求めるとともに、被告らに対し、本件土地のうち赤斜線部分及び本件(四)の建物について共有物分割を原因とする各持分全部移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4項の事実は認める。

2  同5項の主張は争う。

本件(四)の建物は他に賃貸し、その賃料収入は被告ら全員の同意のもとに寡婦であり他に収入のない被告田津子の生活費として同被告が取得することを承認しているところ、原告らの分割案に従えば、被告田津子の生存の道を断つことになるから、到底容認することができない。

本件土地及び同土地上にある建物の現況や本件訴訟における和解手続の経過等に鑑みれば、本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物を分割する場合、本件土地のうち別紙図面の青斜線部分(392.11平方メートル。以下「青斜線部分」という。)を原告らの共有とし、同土地のその余の部分並びに本件(三)及び(四)の各建物を被告らの共有とするのが最も相当である。

三  抗弁

1  原告謙治は、只彦の相続人らが昭和三五年四月八日に只彦の遺産である別紙物件目録(五)記載の土地(以下「本件(五)の土地」という。)を白川正美に売却した際、その代金の内金二〇〇万円を取得したため、その余の共有財産に対して当時有していた共有持分権(二一分の二)を放棄した。

2  仮にそうでないとしても、本件(五)の土地が売却された当時、原告謙治を含む共有者の間においては、同土地をもつて原告謙治の単独所有とする旨の暗黙の共有物分割の合意があつたところ、原告謙治がこれを売却した代金の大部分を取得したことにより、共有物分割は現実化した結果、同原告はその余の共有財産に対して当時有していた共有持分権を失つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項のうち、その主張の日に只彦の相続人らが本件(五)の土地を白川正美に売却し、原告謙治がその代金の内金二〇〇万円を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2項の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし4項の事実は、当事者間に争いがない。

二まず、抗弁について検討するに、只彦の相続人らが昭和三五年四月八日に只彦の遺産である本件(五)の土地を白川正美に売却し、原告謙治がその代金の内金二〇〇万円を取得したことは、当事者間に争いがないところ、証人岡村元仁の証言及び被告正清本人尋問の結果中には、その際に、原告謙治がその余の共有財産に対して有する共有持分権を放棄したことを窺わせる趣旨の供述部分がある。しかし、〈証拠〉によれば、本件(五)の土地上にある建物は従前白川正美に賃貸されていたが、被告正清ら只彦の相続人らの間において、同土地、建物は原告謙治が取得すべきものとの一応の了解ができていたため、同原告がその賃料を取得していたところそれまで被告美代の一家が居住している建物の一室に家族共々居住していた原告謙治が不便を訴え、他に住居を求めて一家を構えたいと懇請したため、本件(五)の土地及び同土地上の建物を賃借人の白川に売却し、その代金をもつて原告謙治の一家が居住するための建物を確保する運びとなつたこと、その代金のうち通路用地に係る金五〇万円余りは被告田津子が取得し、残金二五〇万円については原告謙治がその全額を取得したいと希望したが容れられず、内金五〇万円は病身で収入の道のない被告信弘に与えられることになり、結局原告謙治は金二〇〇万円を取得し、これをもつて肩書住所地所在の土地、建物を購入して以来同所に居住していること、本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物をはじめ只彦の遺産である不動産については、ヨシエら只彦の相続人一〇名及び被告田津子の間で昭和二五年三月に成立した共有の合意に基づき、同年同月二二日受付をもつてヨシエ外一〇名のために所有権取得の登記(原告謙治の持分二一分の二)が経由されていたところ、本件(五)の土地が売却された昭和三五年四月以後も原告謙治の右持分の登記を減じる措置は講じられなかつたばかりか、ヨシエが昭和五七年六月一七日に死亡した後、原告謙治の申請により同原告外六名のために同年一二月一六日受付をもつて相続を原因とするヨシエの持分全部移転の登記が経由された結果、原告謙治の持分は二一分の三に変更されたにもかかわらず、以来本件訴訟に至るまで被告らから何の異議も出なかつたし、持分の登記を変更するよう要求されることもなかつたことが認められ、右の事実に照らして前記各供述部分は俄かに措信し難く、他に原告謙治が本件(五)の土地の売却代金の内金二〇〇万円を取得した際その余の共有財産に対して当時有していた共有持分権を放棄したとの抗弁1項の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

また、先に認定した事実によれば、只彦の相続人らによつて本件(五)の土地が売却され、その代金を原告謙治らが取得したことにより、その限りにおいて共有財産の一部について分割の協議が整つたと評価し得る面があるとしても、このことから直ちに原告謙治がその余の共有財産に対して有する共有持分権を失つたと認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よつて、抗弁2項の主張もまた採用の限りでない。

そうすると、本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物に対する原告らの共有持分は、その主張のとおり、原告謙治において二一分の三、原告惠美子において二一分の一であるというべきである。

三そこで、原告らの共有持分が右のとおりであることを前提に、本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物の分割方法について検討する。

〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、同認定を覆すに足りる証拠はない。すなわち、

(一)  只彦死亡後その遺産の管理は、長男の義彦が既に死亡していたため、二男の被告正清が中心になつて行つてきた。只彦の遺産に属する不動産のうち、神戸市灘区篠原本町一丁目四〇番の宅地409.45平方メートル(義彦所有名義)及び同土地上の建物が昭和二三年一〇月に売却されたのをはじめ、昭和二五年四月には同区篠原本町二丁目三〇番の二の宅地240.95平方メートルが、また、昭和二七年一〇月には神戸市中央区割塚通二丁目一三番の一の宅地584.43平方メートル(一七七坪一合)がそれぞれ売却され、右義彦所有名義の土地の代金の一部を被告田津子が取得した以外は、その代金は相続税や固定資産税の支払等只彦の遺産すなわち原告ら及び被告らの共有財産の管理の費用に充てられた。なお、更に本件(五)の土地及び同土地上の建物が昭和三五年四月に売却され、その代金を原告謙治らが取得したことは、先に認定したとおりである。

(二)  本件土地上には別紙図面記載のとおり(A)ないし(E)の建物が点在し、従前から(A)の建物には被告正清が、(B)の建物には被告田津子が、(C)の建物には被告美代が、(E)の建物には被告惠美が、それぞれその家族とともに居住し、(D)の建物(本件(四)の建物)は被告田津子において他に賃貸している。只彦の残る子供のうち、被告直行は早くに養子縁組をして他家に出ており、被告信弘は病身で被告美代の許に同居している。なお、本件土地の北東にはこれと接して被告正清の所有する土地があり、同土地上の建物(別紙図面の(F))は、同被告が他に賃貸している。本件土地は閑静な住宅地に所在し、同所付近の昭和六一年度のいわゆる路線価は、一平方メートル当たり金一六万ないし一八万円と評価されている。また、本件(三)及び(四)の各建物は、昭和一〇年以前に建築されたものであり、その昭和五八年度の固定資産税課税評価格は、それぞれ金一一九万二一〇〇円、金六三万六一〇〇円である。

(三)  被告らの主張する本件土地のうち青斜線部分を原告らの共有とし、同土地のその余の部分並びに本件(三)及び(四)の各建物を被告らの共有とするという分割案(以下「被告案」という。)は、本件訴訟における和解手続の最終段階で検討されたものであり、本件土地上に現にある建物を取毀すことなく、原告らの共有持分に見合う面積の土地を確保すること主眼としたものであるが、被告らはこれを了承したものの、原告らの容れるところとならず、結局和解成立に至らなかつた。

(四)  これに対し、原告らの主張する本件土地のうち赤斜線部分及び同土地上にある本件(四)の建物を原告らの共有とし、同土地のその余の部分及び本件(三)の建物を被告らの共有とするという分割案(以下「原告案」という。)は、本件訴訟における和解手続が不調に終つた後、被告案のいわば対案として新たに主張されたものであるが、同案に従えば、被告田津子が本件(四)の建物を他に賃貸して得ている賃料収入が奪われるとして、同被告はもとよりその余の被告らも強く反対している。ところで、被告田津子は、夫義彦が出征したころから本件(四)の建物の賃料を取得しており、只彦死亡後もその相続人らの了承の下に、同建物の賃料を収受し、自らこれを管理して今日に至つている。被告田津子は、夫死亡後右賃料収入等をもつて三人の子(被告成光、被告克次及び被告秀禎)を養育し、現在子供達はいずれも成人して独立したため、別紙図面(B)の建物には同被告が一人で居住している。同被告の現在の収入は、右賃料(月額金一三万五〇〇〇円)と亡夫の遺族年金(月額金一二万五〇〇〇円)だけである。

以上認定した事実によれば、原告案については、被告田津子から長年の間自ら管理し、賃料を収受してきた本件(四)の建物を奪うことになり、本件土地の現在の使用状況を前提にする限り、同被告及びその子供達の共有持分に見合う見返りが償還されることは事実上困難であると認められるところ、若くして夫を失い、女手一つで三人の子供達を養育してきた被告田津子の境遇に思いを致すとき、同被告にのみ多くの犠牲を強いることになりかねない分割案は、著しく公平を欠いて相当でないといわざるを得ない。これに対し、被告案については、なる程本件土地のうち原告らの共有となる青斜線部分は別紙図面に表示するとおりの不整形であるから、自ら使用する上でも他に処分する上でもそれなりの不利益があることは否定できないけれども、同部分の面積(392.11平方メートル)は本件土地の公簿上の面積(合計2040.72平方メートル)に原告らの共有持分割合を乗じた数値を若干上回つていること、本件(三)及び(四)の各建物は建築後相当年数を経ていることもあつて、それ自体の価値としては土地のそれに比べればほとんどとるに足りない程度であることのほか、先に認定したとおり、原告謙治は、本件(五)の土地が処分された際、その代金の内金二〇〇万円を既に取得し、これをもつて自らの住居を確保していることなど本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、原告案より相当な分割案であるというを妨げない。そして、被告正清ら只彦の相続人らが本件土地を現在あるような状況で長年住居として使用してきており、これを尊重する限り、他に適当で現実的な分割案は考え難いところである。そうすると、結局、本件土地並びに本件(三)及び(四)の各建物を原告らと被告らとの間で分割する方法としては、被告案をもつて最も相当であると判断するほかはない。

四よつて、原告らの共有物分割請求により、本件土地のうち青斜線部分を原告らの共有とし、同土地のその余の部分並びに本件(三)及び(四)の各建物を被告らの共有とする旨分割し、原告らの請求のうち、被告らに対して本件土地のうち赤斜線部分及び本件(四)の建物について共有物分割を原因とする各持分全部移転登記手続を求める部分は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官萩尾保繁)

別紙物件目録

(一)

所在 神戸市灘区篠原本町二丁目

地番 二五番

地目 宅地

地積 904.59平方メートル

(二)

地番 二六番一

地積 1136.13平方メートル

所在、地目は(一)に同じ。

(三)

所在 神戸市灘区篠原本町二丁目三〇番地

家屋番号 同所一六番

種類 居宅

構造 木造藁葺平家建

床面積 209.58平方メートル

(附属建物)

符号 1

種類 居宅

構造 木造瓦葺平家建

床面積 31.73平方メートル

符号 2

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 76.03平方メートル

二階 50.24平方メートル

符号 3

種類 物置

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 14.54平方メートル

二階 13.55平方メートル

(四)

所在 神戸市灘区篠原本町二丁目二〇番地

家屋番号 同所一九番

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 112.39平方メートル

二階 87.93平方メートル

(五)

地番 二六番の二

地積 339.86平方メートル

所在、地目は(一)に同じ。

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